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エポキシフィルムー主骨格の選択

 三次元架橋したエポキシ樹脂フィルムを作るためには、まず熱可塑性の直鎖状高分子量エポキシ重合体を作り、それでフィルムを作ります。フィルムになる熱可塑性樹脂の分子量は100,000-1,000,000です。汎用エポキシ樹脂のビスフェノールAジグリシジルエーテル(DGEBA)の最も分子量の低いn=0の分子を、これと同じぐらいの分子量の硬化剤で交互共重合させた場合、繰り返し単位は200-2,000になります。これだけの数の重合反応を、末端のエポキシ基と硬化剤の末端基の間だけで繰り返す必要があります。

 ここで課題になるのは、末端ではなく繰り返し単位中に存在する第二級のアルコール性水酸基です。これが末端のエポキシ基と反応すると枝分かれが起きます。この枝分かれが頻繁に起きると架橋する場合があります。その結果、反応溶液中でゲル化して析出します。これではフィルムはできません。

 ですから、エポキシ樹脂でフィルムを作るためには、末端のエポキシ基を硬化剤の末端の官能基とだけ反応させ、重合したエポキシ樹脂の繰り返し単位に存在する第二級のアルコール性水酸基とは反応させない合成条件(重合条件)を見つけることが課題になります。そのためには、硬化剤の種類、溶媒の種類と濃度、触媒の種類と量、反応温度などを詳細に検討しなければなりません。

 

 まずは硬化剤の種類です。

 2019/07/07のブログ「エポキシ樹脂の硬化剤-エポキシ樹脂の特殊性」でご紹介したように、エポキシ樹脂は硬化剤の種類によって生成する構造が異なります。硬化剤にアミン類を用いればポリヒドロキシアミン、フェノール類を用いればポリヒドロキシエーテル、酸無水物を用いればポリエステル、硬化剤を使わずに自己重合させればポリエーテルになります。これらの生成した重合体の中で、どれが直鎖状に高分子量化していくか考えます。

 

 

 まずアミン類ですが、第一級のアミン類は一個のアミノ基に二個の活性水素が存在します。ですから、アミン類を使って直鎖状高分子量重合体を得るためには、第一級のアミノ基を一個だけ持つアミン類か、第二級のアミノ基を末端に二個持つアミン類を選ばなくてはなりません。しかし、第一級のアミノ基を一個だけ持つアミン類では、最初に反応するアミノ基の活性水素と二番目に反応する活性水素の反応性は大きく異なります。これらの反応性の違いを制御しながら一つの分子で200回以上の反応を繰り返すことはかなり難しいと思います。ですから、アミン類を用いる場合は、末端に二個の第二級のアミノ基を持つものを選ばなくてはなりませんが、そのような硬化剤はほとんど市販されておらず、現実的な選択肢とはいえません。

 次にフェノール類ですが、フェノール類はエポキシ樹脂の原料であり、DGEBAを高分子量化する際にもビスフェノールA(BPA)が使われます。エポキシ樹脂を高分子量化するには最も相性のいい硬化剤といえます。

 酸無水物は二官能ですが、シクロヘキサン環またはベンゼン環に結合している酸無水物環が開環重合していくので、真っ直ぐには伸びていきません。そのため、重合時に絡み合いが多くなり直鎖状に高分子量化していくとは考えにくいです。

 最後にエポキシ樹脂の自己重合(単独重合)ですが、これは重合する際にエポキシ基とエポキシ樹脂中の第二級のアルコール性水酸基が重合していく反応ですので、枝分かれ構造、架橋構造を形成する重合反応です。直鎖状に高分子量化しないのでフィルムはできません。

 このような考察の結果、エポキシ樹脂フィルム(ポリヒドロキシエーテルフィルム)を作るための硬化剤(交互共重合原料)は二官能フェノール類が最も可能性が高いということになりました。