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エポキシ樹脂の硬化剤-エポキシ樹脂の特殊性

 エポキシ樹脂は他の樹脂とは大きく異なる特徴があり、それがエポキシ樹脂の理解を妨げているように思えます。エポキシ樹脂は硬化剤の種類によって、硬化物の高分子構造が大きく異なります。そして、硬化物にはエポキシ基は含まれていません。ですから、「エポキシ樹脂」は原料の名前であって、硬化物を「エポキシ樹脂」と呼ぶのは混乱を招きます。

 

 しかしながら、2000年頃まではエポキシ樹脂のバイブルと言われたH. Leeさんと K. Nevilleさんが編集した“Handbook of Epoxy Resins”では、エポキシ樹脂を以下のように定義しています。

 

 “An epoxy resin is defined as any molecule containing more than one α-epoxy group (whether situated internally, terminally, or on cyclic structures) capable of being converted to a useful thermoset form. The term is used to indicate the resins in both the thermoplastic (uncured) and thermoset (cured) state. ”

 H. Lee, K. Neville, “Handbook of Epoxy Resins”, McGraw-Hill, Inc., p.1-2 (1967)

「エポキシ樹脂は,有用な熱硬化性形態に変換することができる2つ以上のα-エポキシ基(内部,末端,または環状構造のいずれにあっても)を含む任意の分子として定義される.この用語は,熱可塑性(未硬化)および熱硬化(硬化)状態の両方の樹脂を示すために使用される.」(Google翻訳)

 

 原料のエポキシ樹脂も、硬化したエポキシ樹脂も、「エポキシ樹脂」だと定義しています。このバイブルの定義が、エポキシ樹脂の理解を妨げてきたと考えます。

 

 一方、JISとISOでは硬化物は含んでいません。

 

JIS K 6900-1994 エポキシ樹脂

「分子中に二つ以上のエポキシ基をもつ化合物で,他の化合物を作用させることによって硬化し得るもの。」

 

ISO472: 2013 epoxy resin

”synthetic resin containing epoxide groups

Note 1 to entry: This is a class of thermosetting resin that can be used in adhesives for structural purposes.

Note 2 to entry: Epoxy resins can be crosslinked with stoichoimetric amounts of co-reactants, such as primary or secondary polyamines or anhydrides, or by the use of catalysts, such as tertiary amines or boron trifluoride.”

 

 こちらの定義のほうが、誤解をまねかないと思います。

 

 他の熱硬化性樹脂と比較してみましょう。

 エポキシ樹脂と同じ熱硬化性樹脂であるフェノール樹脂は、フェノール類とホルムアルデヒドから合成されますが、樹脂硬化物にもフェノール性水酸基は原料と同じ数だけ存在します。

 ウレタン樹脂もウレタン結合を含みますし、ポリエステル樹脂もエステル結合を含みます。

 

 出典:http://www.geocities.jp/don_guri131/image12/fenourujusi.gif

 

 出典:http://sekigin.jp/science/chem/gallery_chem/15chem_05organic22.jpg

 

 出典:http://www.paint-works.net/ure/point/scheme01.gif

 

 熱可塑性樹脂の中にも、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレンなどのように、原料の構造に由来するものもありますが、これらは共重合ではなく、単独重合で骨格構造も簡単ですので、あまり混乱は生じません。

 

 

 しかし、エポキシ樹脂は、硬化剤を用いない単独重合ではポリエーテルになりますが、アミン系硬化剤で硬化させた場合は、ポリヒドロキシアミンになりますし、フェノール系硬化剤ではポリヒドロキシエーテル、酸無水物ではポリエステルになります。

 

 硬化剤によって全く別の主骨格の高分子になるわけですから、硬化剤を変えたら硬化物の物性も大きく異なると考えられます。

 次回はエポキシ樹脂の三大硬化剤といってもいい、アミン類、フェノール類、酸無水物の具体的な話をします。

 

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