非定常作業のマニュアル化

 「研究の作業はすべて非定常作業だから、効率を上げるのが難しい」といわれることがありました。これについて、いろいろ考えてみました。

 文献を読んだり、実験したり、報告書を作成したり、全く異質の業務をこなしていかなければなりません。しかし、これを半年や1年の単位で見ると、かなりの繰り返しが多いことが分かります。

 私が30年以上携わってきた高分子合成に関する研究開発を例にとれば、合成実験の準備、分析試料の準備、分析機器による測定、実験後の器具の洗浄、報告書の作成、備品や材料の発注など、中身は少しずつ違いますが、周りの人から見れば、いつも同じようなことをやっているように見えます。ここが大事だと思いました。やっている自分の立場で考えないで、遠くから眺めてみると、作業の大まかな分類ができます。分類した作業を細分化して、ほぼ同じ作業を抽出します。この抽出した作業を定常化できないか、いろいろな面から考えます。作業の分類は大きく分けて、デスクワーク、実験、その他でしょう。これを少しずつ細分化していきます。

 例えば、こんな感じでしょうか。

 

 

 これらの作業を定常作業にするためには、ひとつひとつの作業をマニュアル化すればいいと思います。

 例えば、合成実験であれば、実験に必要なフラスコ、オイルバス、コンデンサー、撹拌機、温度制御器、温度計、窒素導入管を10台分セットしておきます。これらのうち、5セットをポリマーAの合成に使い、それを継続しながら、次の日に残りの5セットでポリマーBの合成に使います。最初の合成実験が終わったら、すぐに片付けて、次の実験がいつでもできるようにセットしておきます。容量が異なる実験もしたいので、フラスコは50mL、100mL、200mL、300mL、500mL、1L、2L、5Lなどを10個ずつ用意しておきます。通常の丸底フラスコでは、コンデンサー、撹拌機、温度制御器、温度計、窒素導入管をいちいち付け替えなくてはいけないので、セパラブルカバーとセパラブルフラスコにします。50mL、100mL、200mLのセパラブルフラスコはありませんが、300mLからはあります。このようにしておけば、実験する人が違っても、使う機材は一緒なので、実験方法のばらつきも減ります。

 このような合成実験を誰がやっても同じにできるように、マニュアル化します。大きくやり方が異なるいくつかの代表的な実験をマニュアル化しておけば、別の試薬を使っても、いずれかのマニュアルの試薬名だけを変更すれば、誰でもできると思います。

 マニュアル化の重要な点は高効率化だけでなく、実験の精度を上げることにもあります。マニュアルに従って実験すれば、誰がやっても同じ結果が得られます。また、半年ほど経ってから、同系統の実験をやろうとしても、部分的に忘れてしまって、異なる実験方法になってしまうこともあります。こうなると、半年前にやった実験の結果と同列では比較できなくなります。すなわち、同じ表やグラフにデータとして入れて比較できなくなります。これでは効率が悪いですね。