· 

エポキシ樹脂の硬化剤-フェノール類

 三大硬化剤のうち、フェノール系硬化剤を最初に紹介します。なぜ最初にフェノール類を紹介するかというと、これで硬化させると原料のエポキシ樹脂に最も似た構造になるからです。汎用エポキシ樹脂といわれるビスフェノールAジグリシジルエーテル(DGEBA:Diglycidylether of Bispenol A)は、ビスフェノールA(BPA)とエピクロルヒドリン(ECH)から合成されます。二段法では、DGEBAとBPAから直鎖状DGEBAが合成されます。

 

一段法

二段法

 出典:垣内弘編著, “新エポキシ樹脂”, 昭晃堂, p. 20-21 (1985)

 

 二官能のエポキシ樹脂と二官能のフェノール類を反応させても直鎖状に重合するので、硬化しません。ですが、二官能エポキシ樹脂と多官能フェノール類を反応させると三次元網目構造を形成して硬化します。多官能エポキシ樹脂と二官能フェノール類、多官能エポキシ樹脂と多官能フェノール類でも硬化します。これらの硬化物の構造は直鎖状DGEBAと同じ主骨格を持つ架橋高分子です。

 

 二官能フェノール類としては、BPA以外にヒドロキノン(HQ)、レゾルシノール(RES)、ビスフェノールF(BPF)、ビフェノール(BIP)、テトラブロモビスフェノールA(TBBA)、ナフタレンジオールなどがあります。

 多官能フェノール類の代表は、フェノールノボラック樹脂(Ph.Nov.)でしょう。

 

 出典:エポキシ樹脂技術協会編, “総説エポキシ樹脂”, 第1巻, エポキシ樹脂技術協会, p. 175 (2003)

 

 Ph.Novのベンゼン環にメチル基のついたクレゾールノボラック樹脂(Cre.Nov.)も使われます。これらの硬化剤の特徴は安いことです。ノボラック型エポキシ樹脂の原料ですから、エポキシ樹脂より安く、たくさん作られています。

 主骨格にはC-C結合とC-O結合しか含まれていませんので、熱分解温度は高く、350~380℃になります。ガラス転移温度(Tg)もそれほど低くなく、120~140℃になります。

 安価で物性もいいので、コストパフォーマンスは良好です。

 

 しかし、欠点もあります。一番大きな欠点は着色です。空気中で硬化させると、茶褐色から黒褐色になります。しかも、しばしば色にムラができます。ポリイミドのように茶褐色でも透明で均一な色なら特に問題はありませんが、色ムラができると劣化したように見えます。さらには、再び空気中で加熱すると、色はますます濃くなり、ムラもひどくなります。劣化したようにしか見えません。

 

 着色の原因は、フェノール性水酸基とこれに対してパラ位の水素が、空気中の酸素によって酸化されて、カルボニル基に代わってキノン構造になるからと考えられています。エポキシ基と反応せずに残っているフェノール性水酸基しか酸化されないので僅かですが、0.1%のフェノール性水酸基が残っているだけで、着色するといわれています。99.9%以上の水酸基をエポキシ基と反応させるのはほぼ不可能ですので、着色は避けられないと考えます。

 

 次に欠点と考えられるのは、液状のフェノール系硬化剤はないので、無溶媒ワニスはできないことです。これも仕方ないことなので、溶媒ワニスか、溶融混錬か、粉体で使うことになります。

 

 

コメント: 0