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エポキシ樹脂-特殊エポキシ樹脂-その他

 これまで、汎用エポキシ樹脂のビスフェノールAジグリシジルエーテル(DGEBA)、特殊エポキシ樹脂のビスフェノールFジグリシジルエーテル(DGEBF)とクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(Cre.Nov.EP)を紹介しました。

 特殊エポキシ樹脂は他にもたくさんありますが、実はこれまでに説明した3種類で希望にあった硬化物のほとんどが作れます。基本はDGEBAですが、これには液状と固形があります。無溶剤ワニスにするためには液状を選びます。溶剤を使ったワニスにはどちらも使えます。粉体塗料など固形の配合物にするには固形樹脂がいいでしょう。

 無溶剤ワニスの粘度を下げるためにはDGEBFを加えます。硬化物に柔軟性を与えるためには、長い直鎖の固形樹脂がいいです。硬化物の熱的性質(Tg、熱変形温度)を高めるのはCre.Nov.EPです。

 このような単純なエポキシ樹脂で、あれだけ多様なエポキシ樹脂硬化物を作れるのは、硬化剤のお蔭です。エポキシ樹脂のワニス、硬化物の性質を大きく左右するのは、エポキシ樹脂の種類よりも硬化剤の影響の方が大きいのです。次回からは硬化剤の話を始めます。

 

 そうは言っても、他にどんなエポキシ樹脂があるのか、気になる方もおられるでしょう。詳しい説明はしないで、以下に列挙しておきます。

 

 まずは臭素化エポキシ樹脂です。

 

 出典:エポキシ樹脂技術協会編, “総説エポキシ樹脂”, 第1巻, エポキシ樹脂技術協会, p. 42 (2003)

 

 上の式が高臭素化エポキシ樹脂、下が低臭素化エポキシ樹脂です。

 30年ほど前までは、プリント配線板用の樹脂といえばこれでした。UL94 V-0という難燃性の規格があって、これを通すためには当時は臭素化エポキシ樹脂は必須でした。DGEBAはジシアンジアミド(DICY)で硬化させると、ガラス転移温度(Tg)は100℃前後です。一方、DGEBAを臭素化してDICYで固めると、Tgは約120℃に上昇します。他の物理的性質は、熱分解温度が50℃ぐらい下がるだけで、ほとんど影響はありません。しかも、熱分解温度が下がるといっても270℃ぐらいなので、半田の温度260℃には十分耐えられます。

 こんなにいい特性の臭素化エポキシ樹脂が使われなくなった理由は、ダイオキシンです。臭素や塩素などのハロゲンを含むプラスチックを燃やすと、ダイオキシンという猛毒の化合物が生成するので、ハロゲンは難燃剤としては使わないという方針を、電子材料メーカーが打ち出したためです。

 その結果、臭素系難燃剤の代わりに、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、リン化合物などを使ったエポキシ樹脂が主流になりました。

 

 次はグリシジルエステル型エポキシ樹脂です。

 

 出典:https://patents.google.com/patent/DE60217542T2/en

 

 この式はテレフタル酸とフタル酸のグリシジルエステルですが、他にもいろいろあります。でも、いまではほとんど使われていません。特に特徴はないのに、値段が高いからだと思います。

 

 次はグリシジルアミン型エポキシ樹脂です。

 

 これは二官能のアミンのグリシジルエーテル化物です。二官能といってもアミノ基は2個の活性水素を持っていますから、合計4個になって四官能のエポキシ樹脂になります。官能基が多いのでTgは高くなります。典型的な硬化剤のDICYで固めてもTgは200℃以上になります。しかし、C-N結合はC-C結合やC-O結合よりも結合エネルギーが低いので、熱分解温度は低くなります。空気中では、だいたい300℃ぐらいから分解が始まります。C-CやC-Oは380℃ぐらいまで持ちます。

 エポキシ樹脂として、この樹脂の最大の欠点は、自己重合することでしょう。エポキシ樹脂で硬化剤も触媒もなしに硬化してしまうのは、グリシジルアミンだけです。骨格の中に、触媒として働く第三級アミンを含むのですから、仕方ないでしょう。一斗缶で買って少し使い、棚にしまっておいたところ、1年後には固まっていて、捨てるのに苦労したことを覚えています。

 

 最後に脂環式エポキシ樹脂です。

 出典:エポキシ樹脂技術協会編, “総説エポキシ樹脂”, 第1巻, エポキシ樹脂技術協会, p. 78 (2003)

 

 脂環式エポキシ樹脂はグリシジルエーテル型エポキシ樹脂とは全く別物と考えた方がいいと思います。まず、アミン類やフェノール類とはほとんど反応しないので、これらを硬化剤として使うことはできません。アミン類は触媒あるいは硬化促進剤としても使えません。どうやれば固まるのかと思っていろいろ試してみたところ、ルイス酸を触媒として使えば、あっという間に自己重合することがわかりました。代表的なルイス酸としては三フッ化ホウ素(BF3)錯塩があります。BF3は気体なので、アミンやエーテルと反応させて錯塩を作り、扱いやすくしています。加熱すればBF3が遊離して触媒になります。

 BF3錯塩で硬化させた脂環式エポキシ樹脂は、透明で高いTgになります。しかし、骨格中にベンゼン環を持たないので、非常に燃えやすく、プリント配線板用のエポキシ樹脂としては使えませんでした。

 UVで短時間で硬化し、無色透明なので、缶の塗料などで使われているようです。