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エポキシ樹脂-硬化剤ジシアンジアミド

 エポキシ樹脂の選び方をお話する前に、標準の硬化剤として用いたジシアンジアミド (Dicy:「ダイサイ」と発音します :Dicyandiamide)について、簡単に紹介しておきます。

 化学式はこうです。

 シアノ基は1個なのに「ジシアン」アミド基はないのに「ジアミド」。どうしてこの化合物を「ジシアンジアミド」というのか、未だにわかりません。別名はシアノグアニジン、グアニジンにシアノ基がついているので、こちらの方が納得できる名前だと思います。

 下の化学式がグアニジンです。

 ジシアンジアミドは加熱すると以下のように分解して、2個のシアナミドを生成します。(出典:加門隆,佐伯健作,高分子論文集, Vol. 34, No .7, p. 537-543 (1977))

 これがジシアンジアミドが異常なほどの潜在性をもつ原因と考えられます。

 ジシアンジアミドは極性が強く、通常の溶媒、例えばアセトン、メチルエチルケトン、トルエン、エタノールなどにはほとんど溶けません。10%以上溶かすのは、水、ジメチルホルムアミド、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテルなどの極性溶媒だけです。

 ですから、極性の低いエポキシ樹脂にも全く溶解しません。例えば、ジシアンジアミドをジメチルホルムアミドなどに溶かしてエポキシ樹脂と混合し、加熱して溶媒を除去すると、ジシアンジアミドはエポキシ樹脂の中に、針状結晶として析出します。この結晶の表面はわずかにエポキシ樹脂と反応していると思いますが、結晶の内部の分子は全く反応しません。

 

 ジシアンジアミドがエポキシ樹脂に溶解する温度を調べようとして、フラスコに1,000 gの液状エポキシ樹脂と110 gのジシアンジアミドを入れて、撹拌しながら温度を上げていきました。すると160℃ぐらいになったとき、フラスコの口から黒い煙とともに焦げた樹脂が流れ出してきました。暴走反応でした。幸い、人災はありませんでしたが、冷却した後の掃除にはてこずりました。

 この事故のあと、何が起きたのか、考えてみました。エポキシ樹脂とジシアンジアミドが急に激しく反応したのは、160℃ぐらいでジシアンジアミドがシアナミドに分解し、それがエポキシ樹脂に急速に溶け込んでいって、一気に反応したのだと推定しました。この場合は無触媒でした。

 

 プリント配線板の材料であるプリプレグ (厚さ 0.1mm~0.3mm)には、一般的にはエポキシ樹脂とジシアンジアミドが使われています。プリプレグはエポキシ樹脂と硬化剤であるジシアンジアミドと少量の硬化促進剤を溶媒に溶かして、ガラス繊維で織った布(ガラスクロス)を浸して、それを加熱乾燥して作ります。この時は固形のエポキシ樹脂の中に、ジシアンジアミドが針状結晶で分散している状態です。偏光顕微鏡で見れば結晶が確認できます。

 このプリプレグは可使時間が室温で半年ほどありますが、170℃で加熱すると、1時間以内に硬化してガラス転移温度(Tg)が120℃~150℃の硬化物になります。機械的性質もプリント配線板材料としては十分な値を示します。 

 このプリプレグを加熱過圧プレスの中で、160℃以上に加熱すると、シアナミドが生成してエポキシ樹脂と急激に反応して硬化するということでしょう。

 

 この潜在性が買われて、プリプレグ以外にも、粉体塗料などで広く使われています。

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