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エポキシ樹脂-特殊エポキシ樹脂-DGEBF

 前回と前々回は、汎用エポキシ樹脂であるビスフェノールAジグリシジルエーテル(DGEBA)について紹介しました。今回はその他の特殊エポキシ樹脂の中で、世界で多く使われていると思われる樹脂を紹介します。

 

 まずはDGEBAに構造が最も似ているビスフェノールFジグリシジルエーテル(DGEBF: diglycidylether of bisphenol F: 別名 bis(glycidyloxyphenyl)methane)です。

 

 出典:垣内弘編著, “新エポキシ樹脂”, 昭晃堂, p. 41 (1985)

 

 DGEBAとの最大の違いは、DGEBFは下の図に示すようなBPFの異性体の混合物を原料としていることです。多核体の量は少ないようですが、2核体(ベンゼン環が2個の化合物)のうちBPAに似た構造の4,4'体(中央のメチレン基が結合しているベンゼン環の炭素原子が1で、そこから数えて4番目の炭素原子に水酸基がついていること。4'はもうひとつのベンゼン環も4の位置に水酸基がついていることを示します。)は30%程度しか含まれていないそうです。

 出典:エポキシ樹脂技術協会編, “総説エポキシ樹脂”, 第1巻, エポキシ樹脂技術協会, p. 37 (2003)

 

 入手した樹脂のそれぞれの異性体の含有量は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC: High Performance Liquid Chromatography)か、核磁気共鳴(NMR: Nuclear Magnetic Resonace)を用いて定量分析をすれば分かりますが、詳しい方法はエポキシ樹脂の分析方法を説明するときに紹介します。

 

 BPAと違って、2核体だけでも3種類の異性体ができてしまうのは、立体障害がないからです。BPAは2個のベンゼン環をつなぐのがプロパンですので、中央の炭素原子の両側にメチル基が結合しています。このメチル基が邪魔をして、ベンゼン環のオルソ位の水素とアセトンの酸素が縮合しにくくなります。そのような立体障害のないBPFは、パラ位、オルソ位のどの水素も、原料であるホルムアルデヒドの酸素と縮合して、3種類の異性体が生成します。ちなみにBPAの4.4'体の含有率は99%以上といわれています。

 

 DGEBFの特徴は、樹脂の粘度が低いことです。繰り返し単位n=0の場合、DGEBAの粘度は10,000-15,000 mPa・sですが、DGEBFでは3,000-5,000 mPa・sと、1/3程度になります。DGEBAと性質も似ているため、DGEBAを低粘度化したいときには便利な樹脂です。骨格がDGEBAよりも柔らかいことと、2,2'体、2,4'体を含みますので、硬化物のガラス転移温度(Tg)は下がりますが、熱分解温度はほぼ同じです。

 

 2,2'体、4,4'体のBPFにグリシジル基をつけて、ジアミノジフェニルメタン(DDM)で硬化させた場合、Tgは2,2'体が142℃、4,4'体が156℃になると報告されています。

 (出典:長谷川喜一, 福田明徳, 殿谷三郎, 堀内光, "フェノール系2核体化合物を出発原料とするエポキシ樹脂の動的粘弾性に及ぼす置換 基の影響", 高分子論文集, Vol.41, No.10, pp.575-580 (Oct.1984) )

 

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コメント: 5
  • #1

    名無し (木曜日, 07 11月 2019 22:12)

    DGEBFがDGEBAより粘度が低いのは、異性体混合物であることも理由にあるのでしょうか。

  • #2

    柴田勝司 (金曜日, 08 11月 2019 12:28)

    コメントをいただき、ありがとうございます。
    あくまで推定ですが、私もそう思います。
    異性体の混合物の方が、結晶化しにくいと考えます。
    ちなみに、DGBPAの分子蒸留品は低温では結晶化しやすいです。

  • #3

    KY (火曜日, 07 4月 2020 13:31)

    コメント失礼します。

    本日初めて拝見致しました。非常にわかりやすく参考にさせて頂きたく思います。

    本文及びコメントの内容を拝見しましたが、DGEBA(n=0)は常温で固体だった記憶があります。
    ビスAの方がビスF型の方が粘度が高いのは結晶性を有するn=0体が入っているためかと思いました。

    以上、横から失礼致しました。

  • #4

    柴田勝司 (水曜日, 08 4月 2020 09:03)

    コメントをいただき、ありがとうございます。
     常温(20℃前後)で固体のDGEBAは、おそらく高純度品(分子蒸留品)だと思います。
    品番でいうと、YD-8125(日鉄ケミカル&マテリアル)、JER-825(三菱ケミカル)、D.E.R.332(ダウケミカル)のいずれかではないかと思います。
     結晶性以外の要因としては、BPAとBPFを比べた場合、2個のベンゼン環の結合はそれぞれプロピレン基とメチレン基です。プロピレン基の立体障害によって、骨格は剛直になり、粘度が高くなると思われます。

  • #5

    KY (水曜日, 08 4月 2020 10:46)

    ご返答を頂き、ありがとうございます。

    おっしゃる通り上記の品番が該当するかと思います。
    ジメチルの影響で粘度上昇もあるかと思います。
    DGEBA(n=0.1)には粘度の非常に高いn=1体が10%入っていることも大きな要因だと思います。